先ほどの働き方改革の中身についても触れてみます。
日本政府が進めようとしているのは、労働者の多様な事情に応じた「職業生活の充実」に対応することです。そのための施策として挙げられているのが、次のような項目です。
・労働時間の短縮と労働条件の改善
・雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
・多様な就業形態の普及
・仕事と生活(育児、介護、治療)の両立
こうした施策を俯瞰してみると、あきらかに「長時間労働」という従来の雇用慣行が槍玉に挙げられているとわかります。
つまりは「まずは長時間労働を減らそう!」という方向に舵を切っているわけです。
現状、時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間です。特別な事情がある場合でも、年720時間、単月で100時間未満にすることとされています。ちなみに、これは休日労働を含んだ時間です。
さらに、複数月平均では80時間を限度として、月45時間を超えることができるのは年間6か月までと定められています。こうした規制の中で、さらに年次有給休暇の確実な取得や勤務間インターバル制度の普及促進なども進められています。
このような取り組みからも明らかなように、日本は社会全体で残業を減らし、かつ労働時間の絶対数をも減らそうとしているのである。しかもそのしわ寄せは、私たち労働者のほうに寄せられることとなるのです。
事実、副業をしようと考えている人の多くは、生活費や養育費、さらには介護費用などを捻出するためといった事情を抱えています。
これからは、さらに副業せざるを得ない人が増えていくことでしょう。
日本を代表するトヨタ自動車の豊田章男社長は、2019年5月、これまでの常識をくつがえすような発言をしました。それは、代表的な日本型雇用慣行のひとつである、終身雇用に関する次のようなものでした。
「雇用を続ける企業へのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか、終身雇用を守っていくのはむずかしい局面に入ってきた」
実は、豊田社長のこうした発言の前に、4月には経団連の会長を務めている中西宏明会長も同様の趣旨の発言をしています。それは、「企業は今後、終身雇用を続けていくのはむずかしい」という、やはり終身雇用に関するものだったのです。
このような経済界のトップらの発言を見ても、雇用の多様化・柔軟化という名のものとに、ひとつの会社、ひとつの職業からの収入だけで生活できる体制をあらため、マルチに稼いでいく社会へとシフトしようとしていることは明らかです。
考えてもみてください。終身雇用や年功序列という従来の雇用慣行は、人々の生活を安定化させたものの、それができるのは「経済成長」という前提があったためです。
経済成長が見込めない社会において、そのような雇用慣行は、企業にとって負担でしかありません。
事実、日本経済を無理やり盛り上げようと行われたマイナス金利政策は、まず、経済の担い手である銀行に大きなダメージを与えました。メガバンク各社でリストラが進められているのは、ご存知のとおりです。
残念ながら日本は、「一億総中流」という安定の時代が終わり、普通に働けば生活が維持される時代ではなくなりつつあります。これからは誰もが、既存の働き方を変えていかなければなりません。
銀行で進められているようなリストラが、あなたの会社でも行われる可能性は十分にあるのですから。