「本業に支障が出るくらいなら、副業などしなければいい!!」....。
中には、そのように考えている人もいるかもしれません。
ただ現状は、そうも言っていられない状況になりつつあります。
なぜなら、私たちの老後はすでに、脅かされつつあるためです。
私達の老後に大きな疑念を生じさせた「2,000万円問題」について、ここで触れておきましょう。
その問題の前提となっているのは、「人生100年時代」という概念です。
日本の将来を考えると、できるだけ早い段階から、老後に必要な資産形成を行わなければならないことは間違いありません。そのため、多くの人が副業に励んでいる背景には、人生100年時代への期待と不安があるとも考えられます。
人生100年時代とは、ロンドン・ビジネス・スクールの教授であるリンダ・グラットン氏が、著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』で提唱している概念です。その名のとおり、100歳まで生きることを前提にしたものです。
具体的なその中身としては、先進国を中心に寿命が100歳を超える人が増える未来を見越し、これまでと異なる人生設計が必要であると説いています。また、人生100年時代構想会議の中間報告では、次のようなポイントが挙げられています。
・ある海外の研究では、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計されており、日本は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えています。
・100年という長い期間をより充実したものにするためには、幼児教育から小・中・高等学校教育、大学教育、更には社会人の学び直しに至るまで、生涯にわたる学習が重要です。
・人生100年時代に、高齢者から若者まで、全ての国民に活躍の場があり、全ての人が元気に活躍し続けられる社会、安心して暮らすことのできる社会をつくることが重要な課題となっています。
こうした現状を踏まえた上で、金融審議会の市場ワーキング・グループは、2019年6月、「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を発表しました。しかも政府は、この報告書を受け取らないと宣言したのです。
なぜ政府は、この報告書を受け取らないと判断したのでしょうか??
実はこの報告書には、いわゆる「2,000万円問題」と呼ばれていることからも明らかなように、「老後の生活に不足する金額は2,000万円にもなる」と記されていたのです。
具体的には、次のような記述です。
「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれ ば、不足額の総額は単純計算で1,300万円〜2,000万円になる。」
もちろん、この試算はあくまでも平均的な水準のものです。
個々人の収入や支出、ライフスタイルによって違いがあることは、報告書にも書かれています。しかし、不足額に着目して大々的に報じたメディアによって、政府の失策が強調されることとなりました。
政府の失策とは、これまで日本人の老後を支えてきた、公的年金システムのことを指しています。政府は年金に関して「100年安心」という言葉を使っており、それが年金だけで老後は暮らせるという誤解を生み、批判の対象となったわけです。
しかも、金融庁が発表している別の報告書(「事務局説明資料」2019年4月12日)では、退職後に必要となる資産形成額を1,500万円〜3,000万円と見積もっており、市場ワーキング・グループの報告書より最大1,000万円も多くなっています。
こうした報告書の内容からもわかるように、これから先、収入の問題は誰もが当事者になる可能性があります。
副業への意識の高まりは、避けられそうもありません。